▼本文へ
▼総合メニューへ

▲このページの先頭に戻る
▲このページの先頭に戻る

コラム「一滴」 2012年9月

「戦争は人を狂わせる」福岡市の医師・東野利夫さんの言葉である。一九四五年五月に墜落した米軍戦闘機の捕虜八人は旧九州帝国大学医学部に運ばれ、実験手術を受けて全員が死亡した。血管に薄めた海水を注入したり、心臓を停止させたり、肺や脳や肝臓などを切除したり、どれだけ出血すれば人間が死ぬかを見たりと、悪魔の所業が繰り広げられたのである。当時医学生だった彼はこの生体解剖に立ち会った。

戦後、独自に調査をする中で「軍人と医者が残虐非道なことをしたが、これは事件の本質ではない」と東野さんは気がついた。戦争末期の空気と混乱が医者をも狂わせ、平時にはおよそ考えられない異常な心理状態になっていたのである。彼は事件の目撃者として戦争の悲惨さと愚劣さを訴え続け、非戦を誓った憲法九条を守る立場で尽力してきた。

戦後六七年が経ち、戦争体験者はだんだん減っていく。戦争を知らない世代は体験者の貴重な生の声を聴き、大切な教訓をしっかり後世に伝えていかねばならない。

日本は原爆を落とされ甚大な被害を受けたが、一方では冷酷な加害者にもなった。戦争とはそういうものである。油断していると小さなほころびからとんでもない事態を引き起こしてしまう。道を踏みはずさぬよう皆で努力したい。(田)




>> 戻る